落水時に救助を待つ間、水面で体を浮かせてくれるフローティングベストの着用は、落水時に危険の伴う釣り場では必須です。この記事では、フローティングベストを選ぶ際に重要なポイントや、筆者が選ぶおすすめのフローティングベストについてご紹介していきます。

フローティングベストの着用は釣り人の義務

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釣りは安全が第一! 万が一の備えは最も重要

釣りをする上では、何よりも安全が最優先である必要があります。安全が十分に担保されている状態で釣りをしなければ、楽しい釣りの時間が悲劇に変わってしまう可能性もあります。

安全に釣りを楽しむうえでは、危険な釣り場に立ち入らないことなどのリスク回避も大切ですが、何よりも、万が一落水した際の備えが最も重要です。落水した場合に自力で陸に上がれない釣り場では、救助を待つ間水面に浮き続けていなければなりません。どんなに体力がある人であっても、人間が休みなく泳ぎ続けられる時間は短く、水面に顔を出して呼吸ができる体勢が維持できなければ溺死してしまいます。ですから、泳がずに長時間水面で体を浮かせてくれるフローティングベストの着用は必須なのです。

※ 注意

釣り人の中には、泳ぎが得意であることを理由に、「フローティングベストの着用は不要」と考える人が多くいます。しかしながら、落水時にはパニックになってしまい、冷静な対処ができなくなる可能性は十分にありますし、冷たい水に落ちると、筋肉が硬直して身動きが取れなくなってしまうケースもあります。泳ぎが得意な人でも、フローティングベストの着用は絶対に必要不可欠です。特に子供は、フィールドを問わず着用することが推奨されます。

堤防や港湾岸壁以外でも着用が望ましい場合も…

河口 砂浜 サーフ 海岸
出典: 写真AC

堤防や港湾岸壁でのフローティングベストの着用の重要性は、誰でも容易に理解できますが、それ以外のフィールドにおいても着用が望ましい場合もあります

例えば砂浜においては、波や潮流によって流されてしまう危険性があり、特にウェダー (胴長)を着用している場合は、下半身の動きの自由度が制限されるため、フローティングベストの着用は必須です。特に、砂浜特有の”離岸流”と呼ばれる、岸から沖に向かう強い潮流に流されてしまうと、フローティングベストを着ていなければ、無事に救助される可能性は極めて低いでしょう。

また、淡水の釣り場においても、湖や大規模河川などといった、水深が深い釣り場や水流が速い釣り場では着用する必要があります。一見、落水しても危険のないような小川に見えても、実際には見た目以上に水深や水流がある場合もありますので、「着用が不要な釣り場は限定的である」と考えるのが無難です。加えて、安全と思われがちな管理釣り場においても、人間の背丈以上の水深がある釣り場では念のため、着用しておくことをおすすめします。

フローティングベストの選び方のポイントを解説!

フローティングベスト 膨張式
出典: Amazon

前述したように、フローティングベストは落水時に命を守るうえで重要なアイテムなだけに、選び方には注意を払わなければなりません。用途や体格にあったフローティングベストをチョイスしなければ、落水時に意図した浮力性能を発揮できない可能性もあります。ここでは、フローティングベストの選び方の2つのポイントを取り上げていきます。

フローティングベストの選び方のポイント1. 浮力材のタイプ

発泡スチロール
出典: Amazon

フローティングベストの基本的な仕組みは、「内部の浮力材が持つ浮力で体を浮かせる」というものです。浮力材のタイプは、主に2種類あります

1つは、発泡スチロールを浮力材にする「固定式」です。固定式のフローティングベストは、発泡スチロールの塊が内部に入っており、フローティングベストとしては最も一般的です。

もう1つは、炭酸ガスを装填した浮き袋のようなものを浮力材にする「膨張式」です。通常時は、浮き袋となる部分がしぼんでおり、落水時に何らかの方法で作動させると、炭酸ガスを装填した小さなガスボンベから、浮き袋となる部分に瞬時に炭酸ガスが送り込まれ、浮き袋となる部分が膨らんで浮力を発生させます。作動方式は、紐を手で引っ張ることで作動させる手動式と、落水時に水分を感知して自動的に作動する自動式とがあります。

また、限定的ではありますが、固定式と膨張式双方の浮力材を持つハイブリッドタイプのものも存在しています。ここでは、固定式の3つのメリットと2つのデメリット、並びに、膨張式の2つのメリットと3つのデメリットとを解説します。

タイプごとのメリットとデメリット: 固定式フローティングベスト

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固定式フローティングベスト: メリット

メリット1. あらゆるフィールドに対応

種類や製品のグレードにもよりますが、基本的に固定式は、フィールドを問わず使うことができます。特定のフィールドでの使用のみならず、さまざまなフィールドでの使用を想定している人にとって、「1着のフローティングベストであらゆるフィールドに対応できる点は大きなメリット」と言えるでしょう。

メリット2. ほとんどの製品にポケットが付いている

フローティングベスト ライフジャケット 固定式
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固定式で、釣りでの使用が主目的の製品のほとんどにはポケットが付いており、各種タックルを収納することができるようになっています。使用頻度の高い物をポケットに入れ、使う際にワンタッチで取り出せるのは非常に便利ですし、収納ボックスを持ち歩くことが難しい釣り方においては、ポケットの必要性は重要です。

特に、「ゲームベスト」と呼ばれる、ゲームフィッシングでの使用に特化された製品は、ルアーを多数収納可能な大型のケースを収納できるよう、大型のポケットが付いていますし、フィッシュグリップなどの、ゲームフィッシングならではのアイテムを携帯できるよう、リングの数も豊富です。筆者は、収納力の高さや利便性の良さを考慮し、エサ釣りにおいてもゲームベストを常時愛用しています。

メリット3. コストパフォーマンスが高い

財布 お金 お札
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固定式には、一定の信頼性がありながら低価格な製品も数多くラインナップされており、釣りに初めて挑戦する方や釣行頻度が低い人におすすめです。前述した、フィールドを問わず使用できる汎用性も相まって、「非常にコストパフォーマンスが高い」と評価できます。

固定式フローティングベスト: デメリット

デメリット1. 厚さがあるためかさばり, 体の動作の自由度が制限される

前述の通り、固定式は、発泡スチロールの塊が内部に入っているため、どうしても厚さが厚くなってしまい、着用するとかさばります。それに伴い、体の動作の自由度も制限されてしまい、立ったりしゃがんだり回ったりを繰り返す釣り方では、「動きづらい」と感じるでしょう。

詳細は後述しますが、発泡スチロールの浮力材は、強い外圧で押し潰されると浮力に悪影響が出るため、浮力材に圧力が掛かるような乱暴な動作は控えなければならず、「着心地はあまり良くない」と言わざるを得ません。

デメリット2. 保管方法に注意が必要

固定式の浮力材として用いられている発泡スチロールは、顕微鏡で拡大すると細かな穴が無数に開いており、この中に空気が入っているために、高い浮力があります。ですので、外圧が加わって押しつぶされると、この穴が潰れて空気が抜けてしまい、浮力が大幅に低下してしまいます。

そのため、前述したように、着用時は浮力材に圧力が掛かるような乱暴な動作をしないように気を付けるのはもちろんのこと、保管時にも、浮力材に圧力が掛からないよう気を配らなければなりません。ベストな保管方法は、肩ベルトの部分をハンガーに掛けて保管する方法ですが、安価で縫製の質が悪い製品だと、肩ベルトに掛かる負荷によって、肩ベルトの縫い目がほどけてしまう可能性があります。

タイプごとのメリットとデメリット: 膨張式フローティングベスト

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膨張式フローティングベスト: メリット

メリット1. 軽くて厚さが薄く, 体の動作への影響がほとんどない

フローティングベスト ライフジャケット 膨張式
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膨張式は作動時のみ、浮き袋となる部分が膨らむ仕組みのため、普段は折り畳まれてペチャンコにしぼんでおり、故に固定式よりも圧倒的に軽く、厚さも薄くなります。ですから、体の動作への影響がほとんどなく、立ったりしゃがんだり回ったりを繰り返す釣り方での使い心地の良さは唯一無二です。かさばらないので、着心地が非常に良く、より快適に釣りを楽しみたい方にはピッタリでしょう。特に、腰にベルトで装着するウエストタイプの製品は、体の動作への影響がほとんど皆無です。

メリット2. 保管方法に気を遣う必要がない

圧力が掛からない保管方法が求められる固定式とは対照的に、膨張式は、直射日光や過度な湿気を避ければ、それほど保管方法に気を遣う必要はありません。ポケットももともと付いていないため、保管時に、ポケットに収納されている物を取り出す手間も一切ありません。

ただし、年に1回程度の点検や、数年に1回程度の各種部品交換は必要です (詳細は後述)。

膨張式フローティングベスト: デメリット

デメリット1. シチュエーションによっては使用できない

磯 荒磯 波 岩
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あまり知られていない事実ですが、実は膨張式は、磯や消波ブロックの上での釣りでは、本来の浮力性能を発揮できない可能性があり、実際、膨張式を製造する大手タックルメーカーは、磯や消波ブロックの上からの釣りでは絶対に使用しないよう注意を呼び掛けています。

磯や消波ブロックの上から落水した場合、落下時に磯や消波ブロックにフローティングベストが当たったり、潮流や波によって流された際に、磯や消波ブロックに体が打ち付けられたりして、フローティングベストが損傷する可能性があります。固定式の浮力材である発泡スチロールは、多少砕けたり折れたりしても浮力性能に大きな変化はありませんが、膨張式の場合は、浮き袋となる部分が損傷すると装填された炭酸ガスが漏れ出てしまい、浮き袋としての機能を失う危険があるのです。ですから、磯や消波ブロックの上での釣りでは、膨張式は使えないことを覚えておかなければなりません。

また、落水時に水分を検知して自動的に作動するタイプの製品は、雨の日に着用すると誤作動する恐れがあります

デメリット2. ポケットが付いていない

フローティングベスト ライフジャケット 膨張式
出典: Amazon

腰に装着するベルトタイプの一部の製品を除き、膨張式は、ポケットが一切付いておりません。そのため、各種タックルや各種アイテムを運ぶには、収納ボックスを別途持ち運ばなければならず、収納ボックスを持ち歩くことが難しい釣り方には不適合です。フィッシュグリップやプライヤーなどを携帯するためのリングについては、付いている製品もありますが、固定式と比べると数が限定的で、接続したアイテムを保持しておくホルダーももちろんありません。

デメリット3. 点検や各種部品交換の手間が掛かる

フローティングベスト ライフジャケット 膨張式 炭酸ガスボンベ
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膨張式は、作動メカニズムが複雑なため、点検や各種部品交換の手間が掛かります。まず、毎回使用前には、10以上の箇所を点検する必要があります。また、年に1回程度、メーカーでの精密点検を行うよう推奨されています。加えて、一度も作動させていない場合であっても、購入後3年程度を目安に、ガスボンベとスプールを交換しなければならず、簡単な点検と2~3年ごとの買い替えのみで済む固定式と比較すると、圧倒的に面倒なのです。

固定式の場合は、経年劣化による浮力性能の低下が、浮遊可能時間が少しずつ短くなっていくなどの形で徐々に進行していきますが、膨張式は、一定の性能保証期間を過ぎると、全く浮かなくなってしまうようなこともあるため、メンテナンスをきちんと行う自信のない人には不向きです。

※ 注意

ガスボンベやカートリッジが正常に機能する状態かどうかが一目で分かるインジケーターがある製品の場合は、毎回使用前にインジケーターを確認し、異常があることを示している場合は、性能保証期間の内外にかかわらず交換してください。

フローティングベストの選び方のポイント2. 浮力性能

公的組織が制定している、フローティングベストを含む浮力補助具の浮力性能を示す基準には、「国土交通省型式認定」と「日本小型船舶検査機構 (JCI)性能鑑定」との2種類があります。2018年2月の法改正により、船舶の種類や乗船の目的を問わず、小型船舶に乗船する全ての人に浮力補助具の着用が義務付けられたため、着用の際は各種基準を基に、法的義務やフィールドへの適合性を十分に確認してください。ここでは、それぞれの基準を詳しく解説します。

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浮力性能の公的基準: 国土交通省型式認定

フローティングベスト ライフジャケット 膨張式
出典: Amazon

国土交通省型式認定は、会場の保安業務を所管する国土交通省が制定した基準で、各種認定品は、船舶検査の対象となる小型船舶の法定備品として用いることができます。認定レベルは4種類あり、全ての小型船舶において全ての海域で使える「タイプA」、沿海区域の幅広い海域で使える「タイプD」、ゴムボートやバスボートをはじめとする各種エンジン付きボートと渡船のみで使える「タイプF」と「タイプG」となっています。

なお、旅客定員が12名以下の船舶で、かつ航行区域が限定沿海区域、沿岸区域、平水区域の場合は、タイプDも遊漁船での着用義務に対応できます。また、不沈性能の有無、緊急エンジン停止スイッチや音響信号器具の有無、航行区域によっては、1レベル下位の認定品でも法的義務に対応できる場合があります。認定品には必ず、桜のマークが描かれています。

浮力性能の公的基準: JCI性能鑑定

JCI性能鑑定は、小型船舶の検査事務を行う国の代行機関である日本小型船舶検査機構が制定した基準で、法定外のレジャー目的に個人で着用する浮力補助具を対象としています。鑑定レベルは5種類あり、大人用浮力補助具として、浮力11.7kgの「L1」、浮力7.5kgの「L2」、浮力5.85kgの「L3」の3種類、子供用浮力補助具として、浮力5kgの「LC1」と浮力4kgの「LC2」との2種類となっています。

なお、小型船舶の乗船時においては、磯や沖堤防への渡船の場合のみ、法的な着用義務に対応できます。低価格のフローティングベストの多くは、JCI性能鑑定の各種鑑定レベルと同等の浮力性能をうたっているものの、正式に適合品と認められていない製品がほとんどですので、より信頼できる浮力性能を持つ正式な適合品を選ぶことを強くおすすめします。

おすすめのフローティングベストをご紹介!

フローティングベスト: おすすめ1

総合タックルメーカーである「プロックス」が製造するフローティングベストです。ポケットはなく、飾り気も全くないシンプルな設計ですが、その分価格も安く、落水時の安全確保が最大限に図られています。全てのシチュエーションで用いることができる、国土交通省型式認定のタイプA認定品となっており、釣り入門者が最初に買うフローティングベストとしてはもってこいでしょう。

フローティングベスト: おすすめ2

日本における2大総合タックルメーカーのひとつである「グローブライド」が製造する、「ダイワ」ブランドのフローティングベストです。膨張式のウエストタイプの製品であるため、国土交通省型式認定のタイプA認定品でありながら、体の動作の自由度をほとんど損ねることなく着用できる優秀なフローティングベストです。なお、作動方式は、手動式と自動式との両方が備わっており、高い信頼性も魅力です。

自分に合った信頼できるフローティングベストを選ぼう!

フローティングベスト ライフジャケット 固定式
出典: Amazon

「フローティングベスト着用者は、非着用者に比べて落水時の生存率が2倍以上上昇する」というデータもあり、フローティングベストは、万が一の落水時に命を守るうえで不可欠なアイテムです。皆さんもこの記事の内容を参考に、自分の用途や釣りをするフィールドに適合し、信頼できる浮力性能を持つフローティングベストを見つけてみてください。